本尊「薬師如来」お開帳

 東前寺の本尊は薬師如来です。寅薬師と呼ばれているように、寅年が12年に一度のお開帳。秘仏ですから、普段ご本尊は本堂須弥壇の最上段のお厨子の中に鎮座され、お姿を仰ぎ見ることはできません。平成22年10月31日は寅年の『寅の日』に当たり、ご縁の深い絶好の日でしたので新庫裡完成を間に合わせ、近隣のご住職方をお招きして厳粛にお開帳法要を修しました。当日は、前日の風雨が嘘のように晴天に恵まれ、檀信徒や御縁のある方々のご参詣を頂き、薬師如来御真言が堂内に響く中お厨子の扉を開かれると、本尊薬師如来が12年ぶりに私たちの眼前にお姿を現してくださいました。
 本尊薬師如来の手には五色の紐が結ばれ、本堂を外に向かってその紐が延長され五色の布の「善の綱」となって本堂正面の境内に建つ太い柱(供養塔)につながり、参詣者はこの「善の綱」の布の端に群がりました。こうしてつながることで、薬師如来の力が伝わってきてご縁が一層深いものとなるのです。普段私たちが握手をして親密さを増すようなものです。
 薬師如来は仏教の世界のお医者様です。右手で「大丈夫だよ」と安堵を与える所作をなし、左手に体の病・心の病・社会の病を治してしまう霊薬の薬壺を持っています。阿弥陀様の西方浄土に相対し、お薬師様は東方浄土の瑠璃色の世界に住して、信仰心のある人に大医王仏として力を降り注いでくださいます。昇る朝日や闇夜の月の光のように私たちをお医者様の心で照らしてくださるのです。
 

 檀家様にとって自分のお寺を「菩提寺」と呼びます。菩提とはさとりのことです。「ご本尊のお導きでさとりに至る寺、成仏のための寺」と云う意味です。約四百年前、疫病が流行したのかも知れません。この土地の人々はお薬師様を祀り、病気の回復を祈り家族の健康や平穏な暮らし願って来たのでしょう。こうして私たちは代々、四百年以上の長きに渡ってご本尊お薬師様を信奉し、ご加護お力添えを頂いて、人生の健やかな無事長久と、亡き人の成仏を願ってきたのです。
 お開帳はお檀家総出で行うご本尊様の「おまつり」で、昔は余興なども催し檀家外の方も含め近郷近在の人々が集う一大イベントだったそうです。お年寄りの方々が「次のお開帳まで元気でいられるかな」と目を細め楽しそうにお思い出話をする光景は、微笑ましいかぎりです。
 この日をお檀家はじめ参詣者と共に迎えられたことは、ご本尊お薬師様とのご縁があってのことだと思います。今のご時世、往時ほど盛大にはできませんが、お檀家一致協力してお開帳法要を行い、ご本尊のご縁を紡いで頂きました。近隣寺院のご住職20人を招請してお薬師様のご利益がご参詣の皆様に注がれますよう専心に祈祷することができました。心より感謝申し上げます。

   薬王山東前寺住職 堀井則道 

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